それは誰かの願いごと
自宅に戻ると、当然、一人きりで。
部屋の明かりさえついていない真っ暗な空間に一歩足を踏み入れると、いつものことなのに、その静寂が、なんだか妙に思えた。
さっきまでの賑やかな会話が、どこかに吸い取られてしまったような感覚がして、その隙間からは、いつものごとく、マイナスに、マイナスにと働く、考えすぎる癖が疼きはじめていた。
わたしは、今日の信じられない出来事達をネガティブには染めたくなくて、お腹にキュッと力を加えていた。
なぜそうしたのかは分からない。もしかしたら、無意識のうちに、そうすることで幸せな記憶や楽しかった時間を留めていられると思ったのかもしれない。
とにかく、諏訪さんとのことを、幸せな気持ちのままで守りたかったのだ。
わたしのそんな想いが強かったのか、この夜は、疼き出した悪い癖はそれ以上酷くなることはなく、シャワーを浴びたり、明日の準備をしているうちに、いつの間にか消えていってくれたのだった。
本当に、”いつの間にか” だった。
なぜなら、わたしが悪癖の不在に気付いたのは、翌朝、目が覚めてからのことだったから。