それは誰かの願いごと
けれど、例え誰かに噂の真相を訊かれたところで、その答えは今の段階では決められない。
内容次第では、まったくの噂ではなくほとんど事実の場合だってあるし、実際、わたしと諏訪さんはあの日から付き合っているのだから。
そして諏訪さんと相談ができていない現状では、素直に認めるのも、付き合いを伏せて誤魔化すのも、どちらも選べない。
何が正解なのか、どうするのが一番諏訪さんに迷惑がかからないのか、それが導き出せていないのだから。
……今日こそ、諏訪さんに訊いてみよう。
エントランスから外に出たわたしは、ひそかに心を決めた。
諏訪さんと想いが通じた日から毎日欠かさず会っていたにもかかわらず、わたしは、いまだにそのことを諏訪さんに相談できずにいたのだ。
他に話すことがたくさんあった、というのもあるけれど、やっぱりあれこれ考えてしまって、変に臆病になったり、ナーバスになったりで、つまりはあれこれ考えすぎて、なかなか諏訪さんに訊けなかった。
諏訪さんと同じくらい人気がある戸倉さんは、白河さんとの付き合いを周りに隠さなかった。二人で決めたことなのだろうけど、その後白河さんだけでなく戸倉さんも陰で色々言われていたのをわたしは知っている。
そしてそのことで白河さんが悩んでるのも見てきた。
でも二人は、それを乗り越えて、同棲という次のステップに進んだ。
……わたしは、果たしてそんな風にできるだろうか。
そんな不安が、諏訪さんと噂について話し合うことを後まわしにさせているのだ。
どうしても暗くなってしまう気持ちをどうにかしようと、わたしは頬をつまんだ。
今はいいことがあったわけじゃないから、”プラマイ0の法則” とはちょっと意味合いが違うけれど、”自分に痛みを与える代わりに悪いことは起こらない” という厄払いの目的ははたしてくれると期待して、ギュッとつねる。
『大丈夫やって。これ以上、悪いことは起こらへんよ。だから早よオレンジジュースのお兄ちゃんとこ行き』
そんな蹴人くんの笑う声が、聞こえてくるような気がした。