それは誰かの願いごと




「ん………」


そして短いキスのあと、

「オレにとっては、今のみゆきもあのときのみゆきも同じだ」

かすれた声で囁いた。

「……だからもう、オレがみゆきを好きだということを、疑わないでほしい。オレがみゆきを好きになった理由もきっかけも、ちゃんとあっただろ?例え、みゆきが、自分に自信がなかったとしても、オレがみゆきを大切に想っているということにだけは、自信を持っていてほしい」

そう郁弥さんから ”お願い” されて、わたしは揺らしていた視線を郁弥さんの瞳に戻した。

目が合うと、郁弥さんは羽毛のようにやわらかく微笑んでくれた。

「みゆきが好きだよ」

甘やかな口づけが、しっとりと、確かな想いを乗せてわたしに戻ってくる。

わたしも同じ気持ちでいることを、どうやって郁弥さんに伝えようか。

そう迷いながらも、いつしか深くなっていく熱を追うことに必死になっていて、結局、わたしは郁弥さんの熱に応えることで気持ちを伝えることにした。


混ざり合っていく体温に気持ちよさを感じはじめると、思い返すのは、あの健やかな寝息の愛おしさだった。










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