それは誰かの願いごと
「でも私なんかより、今は諏訪くんの方が浮かれてるんじゃないかしら?」
幸せな笑顔が、クスクス笑いに変わった。どちらかというと、愉快げな笑いだ。
「諏訪くんと戸倉くんからはざっくりしたことしか聞いてないんだけど、今度は和泉さん本人からも聞かせてほしいわ」
浅香さんが “諏訪くん” と苗字で呼んだことに心が敏感になったけれど、浅香さんには悟られないようにしなくちゃと、わたしは言葉は発しないで愛想笑いで対応した。
そんなわたしの態度を穿つことなくそのまま受け入れてくれた浅香さんは、
「ね、今日一緒にランチしない?」
いかにもキャリアっぽいメイクを施した目を可愛らしく細めて誘ってくれた。
けれど、あいにく今日は午後から予定があるのだ。
予定といっても、それは仕事ではなく……
「すみません、今日は午後から有休を取ってて…」
「あらそうなの?そっか、それは残念」
浅香さんは本当に残念そうに眉を寄せた。
けれどすぐ、なにかを思いついたように、
「もしかして、和泉さんの午後からの有休と、諏訪くんが明日から出社する予定になってるのは、なにか関係があるのかしら?」
また楽しげに訊いてきた。
思いきり見抜かれてしまったわたしは、思わず「え?」と上ずった声を出していた。