それは誰かの願いごと




「不思議な男の子だったわねぇ」

隣で、本当に不思議そうに言った女性。

わたしは、蹴人くんと何度も会っていることを女性に話さない方がいいと思った。

結果として女性の “お願い” がかなったのであれば、それは蹴人くんのおかげでも、たまたまの偶然でも、どちらでもいいと思ったからだ。

「そうですね……不思議な子ですね」

わたしは、女性に素直に同意した。


郁弥さんの意識が戻ってから、蹴人くんは一度も姿を見せていない。

実は、あれから何度か蹴人くんに呼びかけてはみたのだけど、前みたいにすんなりわたしのところに来てくれなかったのだ。
それでもわたしは、ふと頭に浮かぶたびに、『蹴人くん、いる?』と声に出していた。

蹴人に、会いたかったからだ。
会って、お礼が言いたかった。

なぜならわたしは、郁弥さんの意識が戻ったのは蹴人くんのおかげだと信じているから。

だからそのお礼を、どうしても伝えたかったのだ。

なのに蹴人くんは、あれ以来ぴたりとわたしの前には現れなくなった。

わたしがお願いを話したことで、もう、わたしに会う用事がなくなってしまったせいだろうか。

でもできることなら、郁弥さんと一緒に、また蹴人くんに会いたかった。
元気になった郁弥さんを見てもらいたかったし、わたしが郁弥さんに気持ちを伝えたことも報告したい。

だけど、あの小さな男の子は、きっとわたし達の常識で片付けられるようなところにはいない気がしていた。

神出鬼没で、人の心の中が分かる、関西弁の、不思議な男の子だから………







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