それは誰かの願いごと




『みんなの ”お願い” を1個かなえてあげるよ!』

そう言った男の子に、一番最初に合わせてあげたのは女性だった。

「あらあら、ボクはみんなのお願いごとを叶えられるの?」

すごいわねぇ。

感心するような褒め方に、男の子は「うん!」と誇らしげだ。

けれど、

「あ、ぼくな、蹴人(しゅうと)って名前やねん。だから ”ボク” じゃなくて、蹴人って呼んでほしいな」

幼児口調なのにしっかりと、けれど愛らしく訂正した。

「しゅうとくん?かっこいいお名前ねぇ」

「ありがとう!お父さんがサッカー好きで、ぼくがお母さんのお腹ん中にいるとき、しょっちゅうお母さんのお腹蹴ってたから、蹴るって字と人って字で蹴人って名前になってん」

よほど自分の名前を気に入ってるのだろう。男の子…蹴人くんは、満面の笑みで説明してくれた。

「いい名前だね」

男性がまっすぐに褒め言葉を投げた。
こちらも子供との接し方を熟知しているような印象だ。

二人が蹴人くんと会話を弾ませる傍らでは、諏訪さんが、その様子を黙ってうかがっていた。
その顔には朝の会議を気にしているのか、少しの不安色が混ざっていて、わたしまで心配になってきた。

だけど蹴人くんはマイペースに話を続ける。









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