それは誰かの願いごと
「それでな、お父さんとお母さんがいつも言ってるねん。”ありがとう” と ”ごめんなさい” は必ず伝えようって。だから、ぼくは、”ありがとう” の気持ちをこめて、みんなのお願いごとをかなえてあげることにしてん」
「みんなって、ここにいる全員の?」
「うん!あ、でも……、実は1個だけ条件があるねん」
蹴人くんは男性に答えたあと、神妙に、付け足した。
「条件って、なぁに?」
わたしが問うと、蹴人くんがパッとわたしに視線を向けた。
「―――――それはな、”自分以外の人の願いごと” じゃないとアカンねん」
………自分以外?
意外な答えが返ってきて、わたしは無言で蹴人くんを見つめた。
すると、
「うん、そうやで!自分以外の人やで」
まるでわたしの心の中の疑問を見抜いたように、蹴人くんはわたしに告げてきたのだ。
「え、……わたし、今声に出てた?」
「ううん。でもお姉ちゃんがびっくりした顔してたから、たぶん、そう思ってるんちゃうかなって」
慌てて訊いたわたしに、蹴人くんはけらけらと笑う。
「そっか…。わたしの心の中が分かるのかと思っちゃった」
少しおどけてみせると、蹴人くんはハハハハッと、さらに笑った。