それは誰かの願いごと




「あんな、ぼく、お母さんのお腹の中におった頃から、お母さんの声が聞こえてたし、思ってることもわかってたんや。せやから、ぼくの病気が見つかったときのことも覚えてる。お母さんがどんだけいっぱい泣いたのかも知ってるで?毎日毎日、信じられんほど泣いてたよな。でも……」

そこまで大路さんを見ながら話していた蹴人くんが、こちらに視線を投げてきた。
おそらく、一旦ここまでを大路さんに伝えるようにとの意図だろう。

「……蹴人くん、お腹の中にいる頃から、お母さんの声が聞こえていたし、思ってることも分かってたみたいです。蹴人くんの病気が見つかったときのことも覚えていて、お母さんがたくさん泣いていたのも知ってると言ってます。毎日、信じられないほど泣いてたと、言ってます」


そう伝えると、大路さんの顔色が悪くなっていった。
自分を支えるように両腕を体にまわし、ギュッと掴んでいる。

「大路さん…?」

気になったわたしは大路さんの様子をうかがったけれど、それを阻止するかのように蹴人くんがまた話しだしたのだ。

「でも、ぼくだけやなくてお母さんにも病気が見つかったときは、ぼくも一緒に泣きたくなった。せやけど、ぼくとサヨナラしたらお母さんは助かるって聞こえてきたから、それやったら、悲しいけどぼくはサヨナラするって思ったんや」

「え……?」


蹴人くんの話した内容を、わたしはすぐに通訳することができなかった。







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