それは誰かの願いごと




その後、夕食も一緒にと誘ってくれた二人だったけれど、蹴人くんが「これからお天気がめっちゃ悪くなってきそうな気がするから、お姉ちゃんとお兄ちゃん、()よ帰った方がええよ」と言うので、わたし達は食事はまたの機会にして、夕方の時間帯になる前には、おいとますることにしたのだった。

「蹴人はお天気も分かるのね」

感心して、どこにいるのか見えない蹴人くんに声をかけた大路さん。
でもそのときはもう、蹴人くんは「じゃ、ぼく行きたいとこあるから、雨降る前に先に行くわ」と言い残し、お得意の突然消えるという技を披露した後だった。

「あの、蹴人くん、もうどこかに行っちゃったみたいです……」

わたしが申し訳なさそうに伝えると、ご主人が素朴な疑問を投げかけた。

「蹴人は、自分はずっとここにいるわけではないと言っていましたが、ここにいないときは、どこに行ってるんでしょうか?」

「それは……」

わたしは答えに詰まる。
だって、いくら蹴人くんのことが見えて、声が聞こえたとしても、根本的なことは何一つ知らないのだから。
蹴人くん本人にさえ、分かっていないのだろうし。

すると大路さんがおかしそうに笑いながら言った。

「きっとお祖母ちゃんのとことか、自分の行きたいところに行ってるんじゃないかしら。だって、みゆきさんと諏訪さんにいろいろ聞いて思ったんだけど、あの子、ものすごく好奇心旺盛な子供じゃない?私はそんなふうに感じたの。だから、きっと蹴人、雨が降る前にどこか興味のあるとこに遊びに行っちゃったのね」

「でも今日は降水確率0パーセントやったんちゃう?」

「あれ?そうやった?」

二人の関西弁が、なんだかほんわかとして、いいなと思った。
わたしはまだ郁弥さんに対して敬語が抜けないけれど、いつか、この二人のようにあたたかな雰囲気をまとう関係になれたらいいな……
そんなことを願いながら、わたし達は大路さんご夫婦、そして蹴人くんの家を、退出したのだった。








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