それは誰かの願いごと
「こんなに晴れてるのに、雨なんか降るんですね。蹴人くんに教えてもらってなかったら、全然予想もできませんよね」
パーキングに戻る途中、わたしは、雲一つない快晴の空を見上げながら郁弥さんに話しかけた。
てっきり郁弥さんからは同意の返事があるかと思いきや、
「………雨は、降らないんじゃないかな」
ぽそりと、郁弥さんは意外なことを告げたのだ。
「え?でも蹴人くんが……」
そう言ってましたよ?というセリフは、風のように舞い降りてきた蹴人くんの声に掻き消されてしまった。
「さすがやなぁ、お兄ちゃん」
「え、蹴人くん?」
わたしの真横に、いつの間にか蹴人くんがちょこんと立っていた。
「やっぱりお兄ちゃんは騙せへんかったか」
その表情には、苦々しい笑みが乗っかっている。
郁弥さんは蹴人くんが現れることをいくらか予測していたようで、驚いた様子はなかった。
蹴人くんの神出鬼没に慣れていたわたしでも、今の登場にはびっくりしてしまったけれど、それよりも驚いたのは、郁弥さんの次のセリフだった。
「蹴人くん、もしかしてきみは、もうすぐオレ達とは会えなくなるんじゃないのかい?」