それは誰かの願いごと
「お父さんとお母さんは、今日みたいな晴れた日が好きやねん。でもな、雨の日かって、ええところはあると思わへん?ずっと晴れでも、ずっと雨でもあかん。交代交代にくるからええねん。それでも、この日は晴れてほしい!って思う日もあるやろ?もし、お母さんやお父さんが、晴れて欲しいなあ…って思った日にうまいこと晴れたら、それは、ぼくが、どこかで、お母さんとお父さんのためにそう願ったからかもしれへん。天気だけちゃう。この先、お父さんとお母さんに起こる嬉しいこと、楽しいこと、良いことは、全部、ぼくがどこかで、お父さんとお母さんの幸せを願ったからかもしれへん。せやから、お父さんとお母さんが、毎日に起こるちょっとした良いことを見つけたら、ぼくのお願いがかなったんやな、って思ってほしい。ぼくはいつでも、どこにいても、たとえ姿が見えなくても、お父さんとお母さんの幸せを願ってるから………って、伝えてくれる?」
そうお願いしてきた蹴人くんは、今の晴れた青空のように、どこまでも晴れやかだった。
徐々に色味がなくなってきて、いつ消えてしまうかもしれないというのに、まるでこれから誕生日パーティーをはじめる子供のような、はちきれんばかりの幸せ顔をしているのだ。
わたしはそんな蹴人くんに辛くなって、そんな蹴人くんに何かをしてあげたくなって、その小さな体をおもいきり抱きしめた。
「蹴人くん!誕生日パーティーしよう!ね?いいでしょ?蹴人くんのお誕生日、いつ?」
「へ?」
わたしの腕の中、またさらに透けてきた蹴人くんは、きょとんとした可愛らしい声をあげた。
「だから誕生日だよ。蹴人くんにも誕生日あるでしょ?今蹴人くんがいなくなって、もう会えなくなったとしても、誕生日はずっとなくならないもの。ね?誕生日パーティーしようよ」
抱きしめる力を弱め、なぜだか必死にそんな提案をした。
このままサヨナラなんて、あまりにも嫌だったから。
すると郁弥さんも、
「それいいね。そのときは四人で、蹴人くんのお父さんとお母さんに会いに行こう」
わたしの提案に乗ってくれた。
蹴人くんはわたしの真ん前、額と額がくっつくほどの距離で、その目をキラキラさせていた。