それは誰かの願いごと
「誕生日パーティー、おもしろそう!ぼくの誕生日は命日やから、みんな悲しそうな顔してるねんもん。誕生日パーティーで楽しくしてた方がいいに決まってる」
「それじゃあ、約束ね」
わたしは指切りをしようと小指を立てた。
けれど、蹴人くんは指切りを知らなかったみたいで、「じゃあ、お礼に、お姉ちゃんにええこと教えてあげる」と言うと、こそっと、わたしの耳にナイショ話をしたのだった。
「……………え?」
その内容は、意外なことで、でもわたしが驚くよりも先に、蹴人くんはスッと体を離してしまった。
そして、
「ん――――、めっちゃええ天気やな。雨なんかいっこも降りそうにないわ。ほら、お姉ちゃんとお兄ちゃんも空見てみて!気持ちいいから」
両手を空に突き上げて、目一杯の背伸びをした。
その光景は、蹴人くんの言葉通り、あまりにも気持ちよさそうで、わたしも郁弥さんも、蹴人くんに誘われるまま青空を振り仰いだ。
そのときだ、
お姉ちゃん、お兄ちゃん、ほんまに、ありがとう――――――――
蹴人くんの声が、周りのありとあらゆるものに反響し、リバーブの波となって聞こえてきたのだ。
「蹴人くん?!」
「蹴人くん!」
わたしと郁弥さんが咄嗟に蹴人くんがいた方を振り向いたけれど、時すでに遅しだった。
すぐそばにいたはずの蹴人くんは、姿形、影も気配も、なにもかもを消し去っていたのだった。
「そんな、蹴人くん………」
へなへなと力が抜けてその場に膝をついてしまうわたしを、郁弥さんも屈んで支えてくれる。
「みゆき……」
「……蹴人くん、行っちゃったの?」
蹴人くんが忽然と姿を消すのなんて、もう何度も経験しているのに、わたしは、本当に、もう二度と蹴人くんと会えなくなるのかと、自分でも信じられないほどの寂寥感に囚われた。
「みゆき、蹴人くん、笑ってたよね?だから大丈夫だよ」
郁弥さんの優しい慰めに、それまで溜まっていたものが一気に溢れかえったのか、わたしは、左から、右から、次々に滴り落ちる涙を止めることができなかった。
蹴人くん…………
あの小さな男の子は、わたしに、たくさんの、本当にたくさんのものを残して、去っていったのだった。