それは誰かの願いごと
「ねえ蹴人くん」
「なに?」
「もし、ここに…蹴人くんの前に飲み物がコップに半分だけ入ってたとしたら、蹴人くんは、まだ半分残ってるから嬉しいって思う?それとも、もう半分しかないから悲しいって思う?」
「急に何なん?クイズ?」
「ううん。蹴人くんの思ったことを教えてほしいの」
蹴人くんは「んー…」と悩むような仕草をしたのち、パッと閃いたように眼差しを輝かせた。
「それを全部飲んで、すぐおかわりする!」
想定外の答えに、わたしは一瞬呼吸するのを忘れるほどだった。
「………おかわり?」
「うん!だってたくさん飲みたいもん!」
実に単純明快な解答だった。
ポジティブ、ネガティブ以前に、自分の想いに嘘のない、正直な答え。
わたしは、真正面から投げられたような蹴人くんの答えに、大人の敗北を感じたのだった。
「すごいね、蹴人くん…」
子供にこの質問をしたのははじめてだったけど、子供だからといってみんなが導き出せる答えでもないだろう。
そう思うと、まだ就学前に見える蹴人くんだったけど、もしかしたらもう少し年上なのかもしれない。
わたしは蹴人くんに年齢のことを尋ねようと口を開いた。
けれど、
「ところで蹴人くんは、いくつ…」
「あ、お母さんが来た!」
わたしの質問を遮って、蹴人くんは突然、広場中央に向かって叫んだのだ。