それは誰かの願いごと
「そうやで?まさかもう忘れたん?」
聞き覚えのある関西弁が、コロコロと夜の道路に転がった。
――――――どうして?
こんなところに、どうして蹴人くんがいるの?
偶然、にしては出来すぎている。
わたしは頭を整理させる必要があった。
「本当に蹴人くん…?」
確かめるように尋ねると、蹴人くんは面白そうに笑った。
「だからそうやって言ってるやん」
「……蹴人くん、この近くに住んでるの?」
出来すぎた偶然のうち、まだ考えられそうな可能性を持ち出してみた。
けれど蹴人くんには「違うよ」と即答されてしまった。
「じゃあ、お父さんかお母さんと一緒に、この近くのお店に来たのかな?」
次にありそうな偶然を訊いたものの、それも秒殺されてしまう。
「お父さんもお母さんもおらへんよ」
……お手上げだ。
他に有りうる仮定が考えつかない。
わたしは蹴人くんをじっと見ると、もう一度尋ねた。
「蹴人くん、なんだよね?この前、駅でサンドイッチ買ってあげた…」
「うん、そうやで?お姉ちゃんにはサンドイッチ買ってもらって、お兄ちゃんにはオレンジジュースもらった。あ、コーヒーは飲まれへんかったけど、のど飴もおいしかったなぁ」
オレンジジュースと聞いて、真っ先に諏訪さんが頭に浮かんだけれど、今はそれよりも、この蹴人くんのことだ。
間違いない、この男の子は、あの朝出会った蹴人くんだ。