三日月と狼
そしてまた月に一度のその日がやってきた。

その日になると花澄は憂鬱になり、
その場から逃げ出したくなる。

それでも花澄は仕方なく、将輝の前で艶技をする。

将輝の方は決められた儀式のような行為で
辛くはあったが
それはそれで快楽でもあった。

男と女では身体の構造がまるで違うと花澄は思う。

自分は不妊とわかる前からこの儀式のようなsexに快楽を感じることは一度もなかった。

将輝は子作りのために色んなことを摂生しているせいか気持ちと言うよりも
身体に溜まった物を出したくてその日を待ちわびていたが、
花澄の方はまたダメだったらどうしようと思うと気が重かった。

しかしいつもなら仕方なくその儀式を受け入れる花澄だったが、
今夜は少しだけ気分が高揚した。

次はきっとケイの部屋に行くことになる。
そうしたらこんな事になるかも知れない。

目をつぶって花澄を抱く相手がケイだと想像した。

それだけで気分は随分変わった。

それを将輝に悪いとは思っても
今の花澄はそんな事が必要なくらい
将輝に抱かれる事が苦痛だった。

「花澄…頑張ったね。」

そう言って将輝に抱きしめられた。

花澄は何も言わず窓の月を見る。

今夜も儚い細い三日月の夜だった。

月の周期も同じタイミングなんだなぁと思うと何だか哀しくなってしまった。

「今度こそ成功する気がする。
だからそんな顔がしないで。」

将輝がそんな事を言うので
花澄はまた気持ちが重くなった。

そして将輝が眠りにつくと
勇気を出してケイに連絡した。

「また、逢いたいです。」

そのメッセージがすぐに既読になった。

でもその返事は来なかった。

花澄はかなり落ち込んだ。

きっと嫌われたんだと思った。

しかし、次の日の朝になってケイから

「ウチに来ませんか?」

とメッセージが届いた。

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