碧い瞳のシャイ
桜の下の女の子


月明りに照らされて

浮かび上がる一本の桜の木

その下で…

女の子は見上げていた

桜の花の舞い散る様を

すると…

白い砂丘の彼方から

シャイが歩いてやって来た

でも女の子は驚かない

ずっと桜の木を見上げているから

シャイは尋ねる

「なぜこの木を見上げているの?」

女の子はまだ見上げている

「だって、お花がたくさん落ちてかわいそう…この木も死んじゃうのかな」

「そう…おじいさんが大切にしてた木なんだね」

女の子はやっぱり驚かない

「うん、おじいちゃんだけ死んじゃった…ママと、おじいちゃんのお家に来たばかりなのに…」


シャイは女の子の横顔を見つめて言った

「この木は死なないよ」

「ホント…?」

女の子は初めて振り向く

シャイは近寄って

女の子の頬を伝う涙を

前足の白い毛で拭った

「ぼくはシャイ…よろしくね」

「シャイ…ホントに死なないの?」

シャイは優しく微笑む

「ホントだよ…この木がそう言ってるよ」

「お話できるの?」

シャイは答える

「聞こえるだけだよ…」

「なんて言ってるの?」

シャイはまた答える

「来年また花を咲かせるために、散らしてるんだって」

「どうして?」

女の子は、シャイの喉の辺りを撫でた

シャイは喉をゴロゴロ鳴らす

「大きくなるためだって…君が今悲しんでることも、大きくなるためには必要なことなんだよ」

「ふ~ん、よくわかんない」

シャイは苦笑した

「この木は生きてるから大丈夫…ママが心配しているよ、もうお帰り」

「うん!…シャイ、また会える?」

シャイはニッコリ微笑んだ

「また、いつか会えるよ…きっと」

女の子は手を振りながら

桜の丘から小さく見える

家の灯を目指して駆けてゆく

シャイはまだ少し喉を鳴らしていた

そして白い砂丘の彼方へ去っていった

シャイが去った後に

風が強くなり

桜の葉がざわめいて

月明りに照らされた桜吹雪きが

美しく舞っていた




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