碧い瞳のシャイ
吊橋の青年


青年は吊橋の真ん中にいた

真ん中で…

虚ろな目をして

細い紐にしか見えない

谷底を流れる川を見つめていた

ギイ…ギイ…

吊橋のロープを軋ませながら

シャイが歩いてやって来る

青年は少し驚いた

「…猫?」

シャイは尋ねる

「誰か待ってるの?」

青年は覇気なく答える

「別に…まぁ…似たようなものか」

シャイは険しい顔で言った

「ダメだよ!そんなことしちゃ…」

「何?…おまえ、心が読めるのか」

シャイは答える

「聞こえてきたんだよ…君のやり場のない叫びが…」

青年は黙ってうつむく

その時…

青年は吊橋が激しく揺れるのを感じた

青年は驚いた

黒い帽子を深く被った顔の見えない男が

赤い柄の大きなナイフを片手に

こちらに向って駆けてくる

男はシャイを無視してやり過ごす

そして…

青年に体当りをして

青年のお腹にナイフを突き刺した

何度も、何度も…

青年が崩れ堕ちても

何度も、何度も…

激しい痛みに襲われながら

青年は意識を失いかける

「痛いよ…そんな…」

遠のく意識の中

青年は聞き慣れた声を聞く

「父さん…母さん…」

青年の両親も苦しみながら

青年の名を呼び続けている

「ダメだ…来ちゃ…早く逃げて…」

青年のお腹の辺りから

血が滲み続けてる

「寒いよ、痛いよ…もう、ヤケ起さないから…助けて…」

青年は意識を失い目を覚ます

慌ててお腹の辺りを見ても

触ってもなんともない

誰もいない…

「ゆ…夢?いつの間に…」

ふと吊橋の向うに目をやると

シャイが白い砂丘へと去ってゆく

青年は深く被っていた黒い帽子を取って

頭をポリポリ掻いた

そして懐から

赤い柄の大きなナイフを取り出すと

細い紐にしか見えない川へと目掛けて

投げ捨てた

ナイフは見る見る小さくなってゆく

青年は青く澄み切った空をしばらく見上げてから

吊橋を去っていった

静寂の中

後には山鳥の囀りだけが

美しく響いていた…




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