オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない

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 小学生の弟たちは三つ子で、母と二番目の父との間の子だ。自然妊娠で三つ子を授かる確率は、六千四百分の一だという。
 けれどその三つ子の生み月で、再び事故で夫を亡くす確率は、一体どれほどのものだろう?
 そう言った意味では、母は男運がないと言わざるを得ない。
「なに言ってんの。一郎、次郎、三郎は男の子で、同性の俺が体使って遊んでやってるってだけだ。飯だのなんだのは、結局ねーちゃんに頼りきりじゃん」
 葉月はそんなふうに、自分を過小評価した。けれど遊びたい盛りの小学生三人の相手をする。それがどんなにか大変な事で、そして父のない三つ子にとってどれほどに意味のある事か、葉月はそこを端から度外視している。
 葉月はその姿を大人に変えても、昔から心根のとても優しい子だ。
 そうして葉月は優しくて、周囲の状況を考え過ぎてしまうから、時には自己犠牲をも厭わない。
「……ねぇ葉月、これだけは約束して? 絶対に、大学に行きなさい。学費の心配して、大学進学を諦めるなんて言ったら、許さないよ」
「ねーちゃん……」
 言い当てられた気まずさからだろう。
 葉月は私から目線を逸らすように俯いた。
「それに四月からは、私も大手広告代理店に就職内定も決まってる。だから、心配なんていらない。なんだったら、奨学金だって借りなくていい。葉月の学費は、全部私が出すから」
 葉月に語った言葉に嘘はなかった。私の就職活動に、職務分析や業界分析といった単語は存在しない。
 私にとって就職活動とは、私の労働に対し、もっとも好条件の年収と労働条件を与えてくれる会社を選ぶための単純作業。
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