オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない

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「それからねーちゃん、俺は別にからかってる訳じゃない。ねーちゃんにはさ、本気で良い人と幸せになって欲しいって思ってるんだ。母さんは男運、イマイチだろ?」
「葉月……」
 悪戯めかして語られた葉月の言葉。だけど葉月の目は、欠片も笑っていなかった。
 いつのまに葉月は、こんな大人びた言葉を口にするようになったんだろう……。
 私は葉月を見つめたまま、視線を逸らす事が出来なかった。
「あー、いや。別に母さんも男を見る目がない訳じゃないんだろうけど、結果的には苦労のし通しじゃん? それでねーちゃんまで、生活費のために大学以外の時間は全部バイト、家にいたって三つ子の世話でてんてこまいだからさ」
 葉月は黙り込んだままの私に何を思ったか、母に対してそんなフォローの言葉を付け加えた。
 葉月は、とても的確に物事を捉えていた。
 特に母に対しては、きっと葉月の見解が一番しっくりとよく当て嵌まる。その母は現在、他県の温泉旅館に、住み込みで働きに出ている。
 ……母は決して、見る目がない訳じゃない。事実、私の実父も、二番目の父も、とても優しい人だった。けれどどちらの父も早世し、二度の結婚とも母は幼子を抱えて残されている。
 私と葉月は、母と最初の旦那さんとの間の子だ。けれどその人は、私が五歳の時、事故で亡くなった。葉月はまだ、母のお腹にいた。だから私は父の優しい笑顔と頼もしい背中を覚えているけれど、葉月は実の父親を知らない。
「葉月、ありがと。だけどお母さんには、苦しい状況で大学まで行かせてもらってるから、私が出来る事は手伝いたいの。それにバイトだって、ちっとも大変だなんて思ってないよ? なにより三つ子の世話は、葉月がほとんど付ききっりじゃない」
 私の下には葉月ほかに、更に三人の弟がいる。
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