オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない


 今も心臓が、壊れそうなくらい、バクバクと鳴っていた。
「ここで相手が誰というのは関係ありません。商品を駄目にしたならば、買い上げるのが常識です。誤ってしてしまったのならば、必ずしもこれに当て嵌まりません。けれど今回は、お客さまが意図を持ってされた事の結果です。ですから、お買い上げいただくべきだと思います」
 けれど何故かこの時、私はなけなしの勇気を振り絞って、震える声で答えていた。
「コケにして! パパに全部、言いつけてやるんだから! アンタ、ただじゃおかないから!!」
 底冷えするような、大きくて恐ろしい声だった。
 思わずギュッと身を縮めた。
 さすがに異変に気付いたのか、周囲を行き交う人々が僅かにざわつく。人々の視線が、こちらに集まっているのが分かった。
「オ、オベントヤサン? ダイジョブ? ケイサツ、ダイジョブ?」
 するとその時、騒ぎを心配した隣のケバブ屋さんが、弁当屋の裏手から声を掛けてくれた。
 囁かれた片言の日本語に、涙が出るくらいホッとした。
「アンタ、本気で見てな!?」
 女性は現れた第三者の姿を認めると、捨て台詞を残して弁当屋から踵を返した。
 女性が立ち去った瞬間、私はへなへなとその場にしゃがみ込んだ。
< 18 / 95 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop