オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない

「ケバブ屋さん、ありがとうございました。おかげで、助かりました」
「オベントヤサン、ヨカッタ。ボクラ、トナリドウシ。タスケアウ」
 強面のケバブ屋のおじさんは、ガタイに似合わぬ優しい目をして笑った。
「タマニ、キチガイ、クル。ジコ、オナジ。ヒタスラ、ガマン」
 そうしておじさんは、なんとも建設的な言葉を続けた。
「ほんとに、そうですね。私も事故にでもあったと思って、無傷で済んだ事を幸いと思う事にします」
 本音を言えば、まだ心臓は速く鼓動を刻んでいたし、そう簡単にスッパリと思考を割り切れるものではない。
 けれど今は勤務中、しっかりしろと自分を奮い立たせた。
「バイバイ」
 私が店先にシャンと立つのを見ると、ケバブ屋さんは労わるような眼差しを残して、自分の店に戻っていった。
「どうもありがとうございました」
 私は女性に蹴られ、売り物にならなくなったお弁当を脇に除け、崩れた陳列を整えた。
「お姉さん、シャケ弁ひとつね」
「い、いらっしゃいませ!」
 その後、訪れるお客さまの接客をしている内に、段々と胸の鼓動は常の落ち着きを取り戻した。


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