オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない

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「や、やだっ!? 一郎、次郎、三郎! すみません明彦さん、弟達なんですけど、不躾な真似をして!」
 先に正気を取り戻したのは月子で、月子は大慌てでシートベルトを外すと、車外に飛び出した。
「コラッ! あんた達、人様の車を不躾に覗き込む真似をして! いけません!」
 少年らに向かい、声を大きくする月子の姿は俺の目に、どこか新鮮に映る。
「えー、人様ったって相手はねーちゃんじゃんかぁ」
 すると少年の一人が、月子に向かって不満げに口を尖らせた。
「コラ、一郎。あんたって子は、またそんな人の揚げ足取るような事を言って、いけません」
 ……月子が、弟達を嗜めている。
 常とは違うキリリとした月子の姿に、トクン、トクンと胸が高鳴る。
「あん? ねーちゃん揚げ足ってなんだ? 美味いのか?」
「一郎、美味いに決まってるよ! こないだスーパーの試食コーナーで食ったじゃんか? イカの足に唐揚げ粉まぶして揚げたヤツ、あれ、めっちゃ美味かったじゃんか!」
「あぁ、あれか! アレ、美味かったよな~!」
 ……揚げ足取りの"足"が、よもやイカゲソに繋がろうとは、流石の俺も目からウロコが落ちそうだ。
「って、あんた達!? まさか、試食を目当てに勝手に三人でスーパーに行ったんじゃないでしょうね!?」
 ……おぉ! 月子が、弟達に向かって声を荒げている!
 初めて知る月子の逞しい一面に、ドクン、ドクンと胸が大きく打ち付ける。生き生きとした月子の姿は俺の目に眩しく、そしてとてつもなく魅力的なものとして映る。
「ち、ちげぇよ! 勝手に行ったんじゃないよ。こないだ葉月兄ちゃんと行った時に、試食のおばちゃんが勧めてくれたんだ!」
「そうだよ! それで兄ちゃん、俺達三人が目ぇ丸くして食ったもんだから、結局その唐揚げ粉を買って……あ! ほら!! ねーちゃんが、高野豆腐の唐揚げ作ってくれた時の、買い置きの唐揚げ粉、アレがそうだよ!」
 胸の中、月子への恋心が苦しいほどに膨らんで俺を苛む。
 ……ついでに、月子が作ったという高野豆腐の唐揚げというのが、物凄く気になった。少なくとも、俺が今まで一度も出会った事のない料理なのは確かだ。
「あ! あの時の唐揚げ粉っ!? そっか、ごめんね一郎。ねーちゃんヘンな疑りしちゃって……。でもね、これからはできたら試食品を目ぇ丸くして食べたりは、しないでくれると嬉しいな」
「分かったよ! なるたけ無表情で食うようにするよ! なっ、次郎!?」
「おうっ!」
 俺が眩い月子をうっとりと眺めていれば、視界が突如、月子からニコニコ顔の少年に取って代わる。
 うおっ!?
 カーウィンドウ越しにニョッキリと現れたのは、月子とのやり取りに登場していなかった第三の少年だ。
 少年はジーッと俺を見つめ、キラキラとした瞳で訴える。
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