オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない

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 そうして訪れたディスカウントスーパー”激安堂”での買い物は、俺にとって未知との遭遇の連続だった。
 まず、買い物中も常に気が抜けない。それというのも、精肉や青果、デリカといった各種売り場から唐突にタイムセールを報せる店内アナウンスが流れるからだ。そうして一度アナウンスの品に狙いを定めれば、一家でUターンしてそちらに向かって走る。
 さらに目当てのタイムセールが二つの売り場で重なった場合、一家は二手に分かれて走るのだ。
 しかしそれよりもなによりも、今回の買い物で俺の目を釘付けにしたのは、缶詰詰め放題のタイムサービス企画での月子の勇姿だ。
 極限まで伸ばされた袋、崩れ落ちる限界まで積み上げられた缶。それを崩さずに買い物籠まで素早く放り入れる熟練の手練手管。
 俺は言葉もなく月子の勇姿に見惚れていた。
 ……あぁ、今日の買い物デートは存分に月子の魅力を堪能できる素晴らしい時間であった。
「なぁ、ねーちゃん! 今日の買い物はよかったよな~!」
 俺が月子の勇姿を思い出し、うっとりと夢心地に浸っていれば、一郎が月子の袖を引き、嬉々とした声を上げた。
 今の一郎の言葉を聞くに、今日の買い物は、どうやら子供達にとっても有意義な時間であったようだ。ふむ、いい事だな。
「お兄さんがいたおかげで、一人一本の醤油、五本買えちゃったもんな!」
 お!? 今の次郎の言葉だと、俺も一家の役に立てたようではないか! ふむ、それは大変に喜ばしい事だ!
「醤油だけじゃないよ! 一家族一本のサラダ油だって、別家族って事で二本買えちゃったじゃん! 今日はツイてたね」
 おお!! 続く三郎の言葉に、俺は内心で感涙に咽ぶ。
 そんなのはお安い御用だ、むしろ呼んでくれれば、いつだって喜んで駆け付けるのだが……!!
「それにタイムセールの肉に、おつとめ品の野菜までちょうどよく買えちゃったもんね~!」
 三つ子は嬉しそうに各々醤油やサラダ油といった戦利品を抱え、口々に月子に向かって話しかける。その微笑ましい様子に、大量の肉や野菜を両手に抱えた俺も、自然と口元が綻んだ。
 すれ違いざまに聞き付けたのだろう周囲の買い物客らも、同様に微笑ましい物を見るような目を向けていた。
「あんた達、そういう事は声高に言わないのっ」
 しかし、茹蛸のように顔を真っ赤に染めた月子は、声を潜めて三つ子を窘めた。
「「「えー!? なんでダメなのー!?」」」
 すると三つ子は、揃って疑問の声を上げた。
 俺としても、点数制限が設けられたセール商品をルール通りに購入したというだけで、なんら恥ずかしがる事もないと思ったのだが、月子一家のルールは家長を代行している月子だ。
 だからここは敢えて無言を貫いた。
「も、もうっ、しりません!」
 三対一では分が悪かったのか、月子はそのまま一人、逃げるように空のカートを押して、数メートル先の返却場所に行ってしまった。
「「「あー! ねーちゃんが逃げたー!」」」
 ……ふむ。打ち解けた家族の中にあっては、月子はこうも多彩な表情を見せるのか。
 俺は、この場所以外では絶対に見る事の出来ない、おかんむりの月子のプリプリとした貴重な後姿を食い入るように見つめていた。そうしていつか、俺と二人きりの時にも、これらの表情を見せてくれるようなったらいいと、そんな想像を巡らせていた。
「……あ、そう言えばお兄さん」
「うん?」
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