オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない

17

「お兄さん! また今度、俺らも車に乗せてよ!?」
「こないだのスーパー、超楽しかった!」
「またフードコートにも行こうぜ?」
 するとすかさず弟達が、明彦さんに向かって好き勝手を言い出した。
 けれど明彦さんはそれにも嫌な顔ひとつせず、穏やかに微笑む。
「あぁ、今度また行こう」
「「「やったー!」」」
 しかも明彦さんが本心から言ってくれているのは疑いようがなく、そんな姿を見るにつけ、私の恋はますますその温度を高くする。
 私は助手席のドアを閉めると、纏わりつく弟達を宥めながら、目配せで明彦さんに感謝を告げた。
 明彦さんはそれに左手を上げて応えると、手元のシフトレバーをドライブに入れる。
「ほらほらアンタ達、そんなにくっ付いてちゃ明彦さんが車を出せないよ」
「「「はーい」」」
 明彦さんの車がゆっくりと走り出す。
 私は車が完全に見えなくなるまで見送ってから、そっと踵を返した。私の隣で一緒に明彦さんを見送っていた三つ子も、わらわらと後に続いた。
「ところでねーちゃん、今日は金曜なのに遅かったじゃんか?」
「いつも金曜は、わりと早いのにね?」
「うん、ちょっと仕事でね。……もしかすると来週は、少し残業が増えるかも」
 ほんの少しの後ろめたさを覚えながら答えた。
「そっかー、ねーちゃん残業かぁ」
「仕事とはいえ大変だな」
 私の言葉に、一郎と次郎が口々に声を上げる。
「……案外そうでもないと思うよ。ね、ねーちゃん?」
 え?
 最後に告げられた三郎の言葉に驚いて振り返る。けれど三郎は私が何か言うより前に、意味深な笑みを残し、パタパタとアパートの外階段を上りる。そうしてそのまま、先に部屋に行ってしまった。
 ……今のは、なんだったんだろう?
「ねーちゃん、今晩は葉月にーちゃん特製のシチューだよ!」
「先に食ったけど、超美味かった」
「そっか、それは楽しみだね」
 けれど一郎や次郎と話しているうちに、浮かんだ違和感は記憶の片隅へと押し流されて消えた。



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