オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない
赤ずきんは、オオカミと……



***


 企画会議から僅か一ヵ月。ホテル事業の計画は順調に討議が進み、新形態のホテル【ウル・フラージ】は二年後の開業を決めた。同時に【ウル・フラージ】のチェーン展開、国外への進出計画も決まった。
 そうして今後、ホテル事業はOGAMI傘下のグループ会社として、機能を独立させる。
「では、全会一致で弊社専務の大狼明彦を新会社の代表取締役社長といたします」
 俺は進行役からの名指しを受け、起立して役員一同を見回した。
「この度、新会社の社長に就任いたします、現OGAMIグループ専務の大狼明彦です。若輩ゆえ至らない点もあるかと思いますが、私は職務に関し、一切妥協無く邁進していく所存です。【ウル・フラージ】の名がホテル産業のトップに列挙される日も、決して絵空事ではありません。私には、それを達成させる明確なビジョンもあります。ただし、それには皆様のお力添えが不可欠です。どうか共に、【ウル・フラージ】を盛り立てていただけますよう、協力をお願いいたします」
 俺が挨拶を終えると、役員らから一斉に拍手が上がる。しかし俺は、役員会の全会一致の裏で、父の威光による出来レースと鼻白む者もあるのを知っている。
 だが、それはそれでいいと思っている。五年先、十年先に、成果という目に見える裏付けによって認識が改まればいいのであって、今すぐに評価を得たいとは思っていないからだ。
 結果とは後から付いてくる物で、仮に五年先十年先も俺が笑われるような成果しか上げられていないとすれば、その時は責任を取る覚悟がある。
「では、引き続き新会社の役員人事を発表いたします」
 重圧がまるで無いと言えば嘘になる。
 けれど、社を背負って立つ事に、不安はまるでなかった。これまで通り気負わず、勇まずに、目の前の社会情勢を見定めて、着実に進めばいい。
 俺は形通りに進む役員人事の発表を見ながら、心の目には、この後俺が取るべき最善の道筋を映し描いていた。


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