オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない

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 今日は私と明彦さんの十回目の結婚記念日。
 明彦さんは現在、OGAMIグループの子会社、OGAMIホテルの社長として多忙を極めている。
 一号店の開業から八年、明彦さんが企画立案したホテル【ウル・フラージ】は現在、国内外に十軒をチェーン展開している。その人気は数字にも表れており、宿泊の予約枠に関しては、どこも軒並み満室状態。休憩利用でも常に稼働率は400%を越える好調な数字を維持している。
 ちなみにラブホテル、特に休憩利用という概念は日本人の性文化に即したものの為、海外の【ウル・フラージ】は全て宿泊だけで機能している。こちらも、純日本風の丁寧なもてなしが功を奏し、日本に勝るとも劣らない好評を博している。
 ホテル【ウル・フラージ】と、それを展開するOGAMIホテルは、当時のOGAMIグループ役員らの想定を遥かに越える成功を収めたといえる。最近では、明彦さんがOGAMIグループ会長に就任する日も近いだろうと、そんな声も度々聞こえるようになっていた。
「明彦さん、今日は一緒にゆっくり過ごせてとても楽しかったです」
「あぁ、俺もだ。ここのところは、出掛けるといえば出張ばかりだったからな」
「夫婦でお得意先のところを回るのは、それはそれで充実しているんですけどね」
 私は今も、主婦業と並行して、仕事面でも明彦さんのサポートを続けている。
 明彦さんの秘書役を担い、社内でのフォローはもちろん、出張やお得意様への挨拶にも全て同行している。
「それは俺も常々感じている。とはいえ、仕事の出張と個人的な外出はやはりまるで別物だ。なにより今日は、久しぶりに月子を存分に独り占め出来た」
 最後に寄った【ウル・フラージ】での休憩を匂わせる、明彦さんの台詞。
 囁かれた耳も頬も、一瞬で真っ赤に染まる。
「あぁ、勘違いしないでくれ。俺は川の字が不満な訳ではない。毎晩親子三人で川の字で眠るのも、かけがえのない幸せだと思っている」
 愛しい我が子を真ん中に、川の字で眠りにつく幸せな夜。
 だけど私は、明彦さんと二人、互いの温もりを分け合って眠る幸福も知っている……。
 そう考えると、まるで自分が溢れる幸福の中を揺蕩っているような心地がした。明彦さんとの出会いから、私はずっと幸福の中を歩んでいる……。
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