オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない

12

「それから、前言は取り消してもいいですか? 本心では、明彦さんの隣でずっと一緒に過ごしたいって、いみじくも望んでいるんです! 明彦さん、一度きりの人生だから、ここは思い切り欲張ってもいいですか?」
 迸る愛おしさに、我が身が焼かれるようだと思った。
「当たり前だ! ここは欲張るところだ! だが月子、俺は月子以上に欲張りなんだ。月子、結婚しよう。そうして俺と、同じ場所に帰り、同じ朝を共に迎え、同じ時間を過ごそう」
「はい、明彦さん!」
 愛しい月子を抱き締める。
 四年前と同じ、月子はすっぽりと俺の腕に収まってしまうくらい小さい。しかしその存在感は、俺にとって言い表せないくらいに大きい。
 大切で、切ないくらい愛おしい、……俺の宝。
 キュッと抱き込めば、胸に歓喜が巡る。深く、愛が全身に染み渡る。
 ……かつての俺は、女はいらないと、そう思っていた。
 当時の思いはきっと、正解ではない。しかし、間違いでもない。
 一時の情欲を満たすための女ならば、それは今でも不用だ。けれど俺の人生を温かに照らす『月子』は、それと同列ではあり得ない。
「月子、君は俺の人生を温かに照らす、まさに月のようだ……。君なしにはもう、俺は生きてはいけない」
「なら、同じですね? 私にとっての明彦さんと、明彦さんにとっての私」
 そう言って、月子が笑う。
 その柔らかな微笑みに、俺の中で極限まで膨らんだ愛しさが弾ける。
「ふふふっ。……明彦さん、本音を言えばちょっとだけ名残惜しさはありますが、そろそろ会社に戻りましょうか?」
 俺の胸からそっと顔を上げ、月子は気恥ずかしそうに囁いた。
「社には帰らん」
「え?」
「牧村さんから、資料の作製は今週中で問題ないと伝言を預かっている。これで月子が戻っては、俺の信用が丸潰れだ。なにより俺が、今日は返さん」
「っ、んんっ!?」
 吐息まで奪うように、朱色に色づく唇に口付けた。幾度か角度を変えながら、甘い唇を味わう。
 そうして長い口付けを解けば、熱に浮かされた目をした月子が俺を見上げ、コクンと小さく頷いた。
 ……あぁ、二人の想いは同じだ。
「月子……!」
「明彦さん……!」
 どちらからともなく唇を寄せ合って、触れるだけの口付けをした。

 そっと口付けを解いた後、想いを繋いだ俺達は長い夜の入口に向かい、ゆっくりと走り出した――。


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