剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「冗談、ひと時でも離したくないね」

 セシリアは大きく目を見張る。ルディガーがどんな顔で告げたのかは見えない。視界にはジェイドの呆れた表情が映った。

「なら、精々愛想を尽かされないようにするんだな」

 近くの夜警団の屯所で預けていた馬を引き取り、ふたりは城を目指す。確認したいこともあるが、今は日が沈む前に戻るのが先決だ。

 雨の心配はなさそうだ。とはいえ太陽が姿を隠せば辺りは一気に暗くなる。今日は気温も低めだ。

 城に無事に戻り、部屋に向かう途中でセシリアが口火を切った。 

「元帥、今日はありがとうございました」

 前を歩いていたルディガーが軽く顔だけを後ろに向け微笑んだ。

「お礼を言われるほどのことはしていないさ」

「ですが、元帥のおかげで多くのドリスの情報を得られたわけですし」

 むしろ自分が探るよりもルディガーの方が有益な情報を多く掴んでいる。セシリアの気持ちを汲んでかルディガーがフォローした。

「本人に聞くより、近しい人間から聞いた方がより多くの情報が手に入る場合もある。今回は運が良かっただけだよ」

 そう言って再び前へ進みだしたルディガーにセシリアはさらに質問を重ねようとした。しかし喉まで出かかった言葉を寸前で飲み込み、黙ってルディガーの後を追う。

“エルザさんとは話せましたか?”

 自分が聞いてもいいのか。踏み込んでもいいのか。副官としては確実に出過ぎた真似だ。ふたりが向き合って親しくしている光景が頭から離れない。

 必死で頭を切り替え、手分けしてディアナの死に関する調査をしている団員たちの報告を聞くため先を急いだ。
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