剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 ある棚の前でセシリアは歩みを止め、洋灯を片手に本に手を伸ばした。昨日の続きだと確認し、洋灯を棚に置いて文章に目を走らせる。

 静寂のおかげで本のページをめくる音、炎がジジジと燃えていくのさえよく響く。セシリアがすっかり集中しきっているそのときだった。

「随分と熱心だな」

 反射的に懐に隠していた剣を抜こうとしたが、すんでのところで思い留まる。意外な人物にセシリアは自分の目を疑った。

「陛下……」

 まったく気づかなかったのは自分の至らなさか相手が上手(うわて)だったからか。

 そこには、洋灯を手に持ったアルノー夜警団の総長(グランドマスター)であり、アルント王国の現国王クラウス・エーデル・ゲオルク・アルントの姿があった。

 ルディガーやスヴェンと同じ齢二十六にして、いかんなく手堅い政治手腕を発揮し国を治めている彼は誰が見ても有能だった。

 さらにその外貌も一際目を引く。無造作だがサラサラと流れる金の髪に癖はなく、前髪の合間から覗くのは思慮深さを思わせる鉄紺の瞳だ。

 今は深藍のジュストコールは身にまとっておらず、白い襟付きのシャツに黒いズボンと年相応の青年の格好だ。しかし、どんな身なりをしていても国王として放つ雰囲気はどこか威厳がある。

 セシリアはすぐさま跪き頭を下げた。

「どうされました? なにか必要なものがありましたらお申し付けください。お持ちいたします」

 畏まった固い声に対し、返ってきたのは小さなため息だった。
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