剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
エピローグ
 大きな掌の感触にセシリアは懐かしさを覚える。

「兄、さん?」

 寝ぼけ眼で口を衝いて出た言葉に手の動きが止まる。不思議に思いゆるゆると意識を向ければすぐそばで困惑気味の声が届いた。

「ごめん、起こした?」

 そこでセシリアは覚醒した。続けて状況をすぐに把握する。ここは自室ではなくルディガーの部屋で、彼のベッドの上だ。

 体温をいつもより近く感じるのは、自分がなにを身に纏っていない状態で抱きしめられているからだと気づく。ルディガーはセシリアの顔にかかる柔らかい金色の髪をそっと耳にかけ、おもむろにセシリアに額に口づけた。

「おはよう、シリー」

 セシリアはなにも言わずにじっとルディガーを見つめる。彼女の視線の意図が読めずルディガーは首を傾げた。するとセシリアは軽く頭を浮かせて、彼の腕ではなく少しずらしてベッドに頭を置いた。

「どうした?」

 なにか嫌だったのか。ルディガーが問いかけるとセシリアは上目遣いに呟いた。

「……剣を扱うのに腕に負担をかけるのは申し訳なく思って」

 腕枕をされていた状態だったのを気にしてらしい。まさかの気遣いにルディガーは目をぱちくりとさせる。ややあって戸惑う感情を声に漏らした。

「はぁー」

 項垂れるルディガーにセシリアは少しだけ不安になる。せっかくふたりで迎えた朝に、空気が読めていなかったかもしれない。すると突然、ルディガーの腕の中に再び閉じ込められる。

「反則。寝起きもこんなに可愛いなんて。シリーは意外と朝が弱いんだ」

「別に弱くないですけど……」

 抱きしめられているのでくぐもった声になるもセシリアは小さく反論する。今日は特別だ。しかしそこで原因を深く突き詰められるのは、どうも気恥ずかしいのでそこまでにしておく。
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