剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「なんであれ、今は情報を得るのを優先すべきです。ディアナ嬢から得られないのであれば尚更」

「そこを突かれると痛いね」

 ルディガーは困惑気味に苦笑する。アスモデウスと接触したと噂のあるホフマン卿の娘ディアナだがルディガーの話によるとそんな話題はまったくでなかったらしい。

 当然といえば当然か。

 彼女と再度、接触する機会があるならそちらから探ってもよさそうだが、この前の夜会でルディガーが取った行動を考えれば難しいだろう。

 彼がディアナと交わした会話といえば、当たり障りのないものばかりだった。

 『私、最近綺麗になったってよく言われるんです』と話を振られたりはしたらしいが、自分に自信のある娘の発言としてはおかしくはない。

「元帥は彼女になんとお答えしたんですか?」

「『元々、君は十分に綺麗だと思うよ』ってね。あの場ではそう返すのがマナーだろう」

 ディアナがどういったつもりでルディガーに言ってきたのかは容易に想像がつく。肯定してほしい、称賛してほしい気持ちがあるからだ。そこを悟れないほどルディガーも鈍くはない。とはいえ。

「……それであの仕打ちですか」

 意識せずともセシリアの声に冷たさが帯びた。おかげでルディガーが苦虫を噛み潰したような顔になる。

「だから彼女は関係ないって話だったろ」

 わざわざあのときの話を蒸し返しても今は得策ではない。ルディガーはわざとらしく咳ばらいをひとつして話題を戻した。
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