剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
過去に誓う
 セシリアの父は、アルノー夜警団のアードラーとして当然のごとく息子に剣を与えて鍛えぬき、また彼に才能を見出されたルディガーやスヴェン、そしていつか国王の座につくクラウスにも剣を教えていた。

 おかげでセシリアは幼い頃から彼らを知っている。

 セシリアが五歳のときに母を亡くし、祖母のベティが母親代わりになった。ベティを支えるため、家の用事や家畜の世話、農作業などを手助けしつつ時間が空けばセシリアも剣を取った。

 歌や刺繍、ダンスにお洒落など同年代の女子が嗜むものには興味を持たず、兄と幼馴染みの後を追いかける日々。

 ただ本を読むのは大好きで、兄のお下がりの本をよく読み漁り、頭の良さや回転の速さは周りを感心させた。

「やぁ、シリー。今日もいい天気だね」

「こ、こんにちは、ルディガー」

 家の庭の手入れをしていると声がかかり、相手を確認してからセシリアはぎこちなくも挨拶した。彼に向き直り、礼儀としてスカートの両端の裾をちょこっと持ち挨拶する。

 兄の友人たちの中でも、一際セシリアをまめに気にかけたのはルディガーだった。

 他の面々も邪険にするわけではないが、四つも年下の女児をどう扱えばいいのか心得ていなかったのだ。それは年を重ねるごとに顕著になっていく。

 一番卒なく対応したのがルディガーで、おかげでセシリアは彼にもっとも懐いていた。

「見ないうちに髪が伸びたね」

「ルディガーは背が伸びたんじゃない?」

 十歳のセシリアは年上のルディガーに対し臆しもせずに会話する。年が下とはいえ、自分たちの立場は対等だと信じて疑わなかった。
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