剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「いや。お前のおかげでドリスと次に会う機会は得たからな」

 ドリスから頼まれた用件を思い出し、セシリアはわずかに視線を落とした。

「……一応、あの人に聞いてみます」

「下手に気を回すなよ。本人同士が望んだわけでもないんだ。会わないなら会わないでそれを伝えに行けばいい」

 間髪を入れずにフォローされ、セシリアはかすかに笑みが零れた。

「はい。こちらもなにか情報を掴んだら報告します」

「よろしく頼む。にしても、セドリックが妹のお前をよく気にかけていた気持ちが、今ならなんとなくわかるな」

 苦笑してジェイドは呟く。急に兄の名前が出され、セシリアとしては意味がよく掴めない。ジェイドはなにげなくセシリアの頭に触れた。

「気を回し過ぎるところがあるから心配になるって話だ。察しがいいのは褒めてやるが、相手は上官とはいえ四つも年上の男なんだから、もう少し素直にぶつかってもいいんじゃないか」

 どうしてここでルディガーが出てくるのか。セシリアは混乱するも考えをまとめ上げる。

「……部下としてではなく、たまには妹分として接しろって話ですか?」

 ルディガーが不意に自分を愛称で呼ぶのはそういうことなのか。セシリアの返答にジェイドは虚を衝かれた顔を見せた。ややあって遠くの方を見つめる。

「これはなかなか手強いな」

 尋ねようとするも、さっさと行けと手の甲で払われ、彼らはそこで別れることになった。
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