クリスマスなんてなくなればいいのに。
「麻耶……さん」
最近は聞くことのなかった男子達のひやかし。
別の話をしながらもしっかりと耳を澄ませていたらしい女子達のひそひそ声。
その、どれよりも遠かったわたるの声が一番大きく、近く聞こえた。
狼狽した表情。行き場をなくした手。
本気で困ってるし、焦ってるんだと思う。
けれど、わたしにはどうしようもできない。
だって、こんなにも。
「……っ、最低」
わたるの言葉に傷付いて、泣きそうなんだから。
何事も無かったみたいな態度を示すことはできなくて、わたるに背を向けた。
からかうのも、ひやかしも、憶測も、勘違いも。
やめてほしいとは思うけれど、みんな嫌がらせをしようとしてるわけじゃない。
わたしとわたるの様子がおかしいことに気付いて、瞬時に戸惑いを見せ困惑を零しているし、心配そうにこちらへ寄ろうとする女子の姿も目に入っていたけれど、誰の声も手も無視して駆け出す。
廊下に出て、教室内で起きたことは何も知らない生徒の間を掻い潜っていく。
その間にも溢れ出して止まらない涙を誰にも見つからないように、俯きながら、人にぶつからないよう壁際に沿って走る。
全身が熱かった。
心だけが、冷たかった。
仕方ないのかもしれない。
切り抜けるためには、嘘だって必要だ。
誤魔化すことも、はぐらかすことも、小さな欠片みたいな嘘はいつだって必要だった。
だけれど、あんなこと。
あんな風に、言う必要なんてない。
誰もいないところに行きたかったけれど、人の寄り付かない場所は限られている。
飛び込んだのは、いつかの空き教室。
いくつかのぼろぼろの机が角に寄せられて、何が入っているのかわからない段ボールや錆びたロッカー、無数の椅子が散らばっている。
前はここまでひどくなかった。
空き教室というよりは、倉庫として使っているのかもしれない。