夜のしめやかな願い
*
でも、オミは?
遅まきながら、ふと思い至ったのは数日たってからだった。
宗忠に何にも心配しなくていいよ、と言われた。
だけど、オミは?
半ば勘当されて、日本を出て行ってしまったのだ。
自分のことばかりで、オミのことを一切思い至らなかったのに、罪悪感が沸き上がる。
片隅に鬱々した思いを抱えながら、啓と発表会の練習をしていた。
「おいっ」
ピアノを弾く手を止めて、啓はドスの利いた声をだした。
「おまえなあ~、桜の花びらが舞う様子って言ってんだろ」
「すいません」
さゆりは肩を縮こませた。
「花ごとボトボト落っこちてるだろっ」
「それって椿だと思いますけど」
啓のこめかみに青筋が浮いたのが見えた。