夜のしめやかな願い
つかめそうで、指を伸ばせばひらりとかわされる。
陽の光でまぶしく、見上げていると吸い込まれそうだった。
吸い込まれてこの世から消えてしまいそう。
あの時、引き留めるように腕を引いた人は誰だっけ。
さゆりはゆっくりと記憶の中で視線を上げる。
少年特有の薄い肩にきゃしゃな首。
「OK。
今日はここまでだな」
さゆりは唐突に現実に引き戻された。
「はあ」
気の抜けたような返事をして、まばたきを繰り返す。
「めし、食って帰るか?」
楽譜を整えながら啓が聞く。