今日から夫婦を始めました
「わかった、待ってるから」

そう言った私に、
「助かるよー、持つべきものは“形だけ”の妻だな」

北居くんは言った。

「ハハハ、そうだね」

笑いながら返事をした私だけど、心の中は複雑だった。

その“形だけ”の妻が夫の恋人に口説かれたんですよ。

「すぐに家に行くから」

「わかった、じゃ」

通話を終わらせてスマートフォンを耳から離すと、バスルームへと足を向かわせた。

バスタブにお湯をためている間にパジャマからパーカーとジーンズに着替えた。

さすがにパジャマのままで北居くんを迎える訳にはいかない。

バスタブにお湯がたまったのと同時に、チャイムが鳴った。

北居くんがきた。

私は今度はバスルームから玄関へと足を向かわせた。
< 61 / 80 >

この作品をシェア

pagetop