リンク・イット・オール
「……ごめんね」
真紘先輩はまたその言葉を口にしてベンチを立つ。そしてこちらを見ることなく、その場を歩き出す。
「真紘先輩っ……」
引き留めようと、立ち上がり手を伸ばす。けれど彼はその手をよけ、足早に公園を出た。
『待って』
『もう歌えないなんて言わないで』
『だっていつか、もしかしたら』
言いたい言葉は沢山あるのに。
どの言葉もひどく無責任なものに思えて、ひと言も言えなかった。
そして真紘先輩の後ろ姿が見えなくなり、私は力なく再びベンチに座った。
……真紘先輩、泣いてた。
いつでも笑っていた彼が、あれほどまでに激しく感情を露わにしていた。
そうさせたのは、自分の無神経な言葉だ。
でも私はただ、真紘先輩に歌をやめないでほしくて。
諦めてほしくなんて、なくて。
だけど、それを彼に押し付け拒まれてしまった。
自分の気持ちと彼の胸の内、様々な感情が心の中でぐちゃぐちゃに乱れて、涙が溢れだす。
夕日が沈み、空が暗くなっていく。
握りしめたままの缶が冷えていくのを感じながら、私はその場で動けないまま。
私には、なにもできない。
真紘先輩の心に寄り添うことも、励ますことも、できない。
自分の無力さを感じ、泣くことしかできなかった。