敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~
「……で、何かあった?」
私がソファに座ると、自分の執務机に座る室長が素っ気なくこう言った。
というかそっち座るんだ。
近くに来てくれるかと思ったのに。
急ぎの予定はなかったはずだけど、何か抱えてることがあるのかも。
「何か、って、ありましたよね?」
思ったよりも刺々しい自分の声に驚いた。
でもそうなるのも仕方ないと思うんだけど。
あれだけ濃い時間を過ごしておいて、他の男と二人きりにさせたり、今日まで連絡せずに放置したり。
「何で機嫌悪いんだ? スーツたくさん買ってもらえたんだろ?」
「買ってもらったとか、私がおねだりした訳じゃないですよ。というか、他に何かないんですか?」
「何かって?」
あ、これわざとだ。
いつも察しが良すぎるこの人がわからない訳ない。
しかも机の上の書類ばかり見てこっちを全然見ないし。
なんか腹立ってきたかも。
「気にならないんですか? 自分の婚約者が他の男の人と一緒にいたんですよ。電話ぐらい、くれたっていいと思います……」
語尾がしりつぼみになってしまった。
なんか弱いなあ、私。
好きになった方が負けってホントだな。
「……昨日は色々立て込んでたからな。何かあれば君からかけてきてもよかったのに」
室長は手元の書類を見ながら、私へは目も向けずに淡々とそう言った。