敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~
どうも何かがおかしい。
あの朝までは、変わらず私を構い倒していたのだから、その後ーー、私と別れてから何かあったんだろうか。
「それと、常務に私とは付き合ってないって……」
「ーー悪い、この後外出するんだ。話なら今日の帰りにしないか?」
一番聞きたかったことを口にした瞬間、室長はスッと立ち上がり、話を切り上げてしまう。
それにやっとこっちを見たけれど、そこにあるのはなんの感情もない眼差し。
ベッドの中で熱く見つめあった、欲に溺れたあの目と同じものだとは到底思えなかった。
「今日の帰り、ここに寄ってくれ。俺からも話すことがあるんだ」
「……はい、わかりました」
恋人じゃなく上司と部下の会話そのもの。
気持ちが通じあった気がして浮かれていたのは私だけなんだろうか。
けれど、今は仕事中だし。
それに室長からの話というのは私のうちへ挨拶に来る件かもしれないし。
心のどこかにある不安は私の気のせい。
そう思いたくて、私は気持ちを前向きに切り替え、執務室を後にした。