敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~
「ふふっ、やっぱり七海ちゃん可愛いわあ。そんなに赤くなってたら好きなんですって言ってるようなものよ。鉄仮面も自分が可愛げないもんだからそういうところに惹かれちゃったのかしらね」
「あ、あの阿川さん……。私は、確かに室長をお慕いしてますけど、室長は違うかと……」
「えー? そんなことないと思うけど。ちょいちょい見てるあの目は部下を見るのとは違うのよ。試しに誘ってみたら? 上手くいくんじゃないかしら」
阿川さんは唇を薄く開き、メイク直しの仕上げに紅い口紅を塗り上げながらそんなことをさらりと言うけど。
私と室長がまだなんの関係も持っていなければ、玉砕覚悟で誘うなんてことも出来たかもしれない。
でももう私には室長を誘うなんてことは到底出来そうにない。
「……じゃあ機会があれば頑張ってみようかな、と……」
私と室長の関係は話せないので、事情を知らない阿川さんに失礼にならないようやんわりと話を終わらせようとしたものの。
「……七海ちゃん、機会なんてね、待ってても意外と来てくれないものよ」
そう言って阿川さんは私に微笑んだけれど、どこか影があるというか、いつもの自信に溢れた微笑みではないように感じる。
「余計なお世話だと思うけど、お局の小言として言わせてもらうと、素直に生きるのが一番幸せになれる道だと思うわ」
まさか阿川さんの口から“お局”なんて言葉が出るとは思いもしなかったので一瞬あっけにとられてしまった。
でもやっぱりそう話す阿川さんがいつもと違う様子なので、勝手な想像だけどこんなに完璧な阿川さんでも色々あったのかなあと「素直になる」というワードがやけに印象に残った。