敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~



「素直って……私が一番苦手なことなのに……」


おつかいを頼まれ、エレベーターを待っていると、誰もいないのをいいことに思わず心の声が漏れてしまった。

阿川さんからのアドバイスは「素直になること」だった。
でもこれまで私は自分の気持ちに素直になることをずっとためらって生きてきた。

小さい頃両親が共働きで留守番が多いことは嫌だったけど、嫌って言ったら困らせるだけだから言えなかった。

本当は寂しいから早く帰って来て、と言うのも我慢した。
お父さんとお母さんが喧嘩してばかりの毎日も嫌だって言えなかったし、離婚することになったのも嫌だった。

でも言って困らせるのも嫌だし、だったら私が我慢したらいいと思ってた。

そのせいか、大人になっても素の自分を見せるのが怖くて相手に合わせて付き合ったり。
結局はそれでつまんないとか言われてふられたりとか。

でも今考えると深く人と関わるのが怖かっただけかもしれない。
困らせて、嫌われる方が怖かったんだと思う。


「はぁ……。というか既に困らせてるのか……、あ……」

「……お疲れ様」

「お、お疲れ様です」


エレベーターホールで顔を合わせたのはまさかの室長で、以前なら疑問に思わなかった鉄仮面らしい素っ気ない態度が今は胸が痛む。

< 265 / 282 >

この作品をシェア

pagetop