敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~
「七海ちゃん大丈夫?」
「あっ、はい、どうぞお先に…。お店分かるのですぐに追いつけます」
振動を続けるスマホを手にしたまま私がこう言うと、阿川さんは口角を上げてニコッと笑い、私が乗り込むのを待っていたエレベーターのドアが閉まった。
この時にはもう電話は切れていたけれど、私は踵を返して室長の執務室へと向かう。
この前室長の私用のスマホに私の電話番号は登録したけれど、その後律儀に返されたのは室長の電話番号だけだった。
聞けば電話以外の連絡手段はプライベートでは面倒くさいので使っていないという返事が返ってきた。
まあとりわけ面倒くさいと思ったきっかけはきっと女性絡みなんだろうけど。
「室長、神田です」
「……どうぞ」
執務室をノックすると、私だと分かりきったような素っ気ない返事がされたので、私はすぐにドアを開けて中へと入った。
室長は身なりを整えようとしていたのか、上着を手にしたままドアのすぐそばにある鏡の前に立っていた。
「悪い。ホールにいるのは分かったんだが君だけ呼び戻す理由がなかった」
「ああ、そうですよね。業務都合で私だけが呼ばれたら、なんのことか詳しく聞かれますし。それで、何かお急ぎの用事ですか?」
「いや、お急ぎというか……こんなことを君に頼むのも悪いんだが」
「……なんです?そんなに言いづらいことですか……?」
室長は苦渋の決断でも下すかのような難しい顔をしているので、一体何がそんなに言いづらいのかが俄然気になってくる。