敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~
「そんな作り笑いするな。思うことがあるなら言えばいい。君は俺の……」
「保険ですよね?わかってます!もう、私行きます……!」
作り笑いは確かにしたと思うけど、図星をさされると恥ずかしさや黒い気持ちを隠したい後ろめたさでいたたまれない。
そんな思いに急かされ、早く出て行こうとドアに手をかけたけど。
「ーー七海」
「あ……」
背中に感じる室長の気配。
不意に名前で呼ばれ、こんな状況でも胸をときめかせるバカな私。
ドアに掛けていた私の手に室長の手が重ねられ、まるで私を閉じ込めるかのように彼のもう一方の手はドアについている。
背中越しに伝わる温もりと、重ねられた手の力強さに勝手に胸が騒いでいく。
「接待が終わったらあのバーで君を待ってる。そこで君の不満を聞くよ」
「わ、私不満なんてありませんから!もう行かなきゃ……、っ!」
耳に感じたのは熱を帯びた吐息と軽いリップ音。
触れた感触はしっとりとして、室長の唇が触れたことに疑う余地はなく。
「なっ……」
「行っておいで。佐伯さんをよろしく」
「っ……、わかりました……!」
私にこんなことをするくせに、自分の大事な人を見守れと言うなんてひどすぎる。
そんな思いを私にさせているのは室長なんですよ、という恨みのような思いを込めて執務室から出ていく時に振り返ったけれど。
「……待ってる」
仕事の時には見せない、優しい笑みを浮かべてそんな言葉を投げ掛けられると、複雑な思いの中で『保険』でもキープでもいい、と思ってしまう私はきっと幸せにはなれないのだろうと思った。