敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~

「詳細な理由が知りたいのは何故です?興味本意ですか?それとも知らなければ業務に支障が出るからですか?」

「え……、いえ、興味本意というわけでは……」


あ、今日も阿川さんの負けだ。

そう思わざるを得ないほどの冷たい空気が漂い始める。
無表情なのに、有無を言わさぬ威圧感が半端なく、標的の阿川さんのみならず、新人さん含めたここにいる全員が蛇に睨まれた蛙のごとく固まってしまった。

新人さんの佐伯さんにとっても有難い空気ではないだろうなと思うと、コネだとかなんだとか色々勘ぐっていたけど仲良くしようと思い始めるから不思議だ。


「では佐伯さん、私に付いて来てください」

「あっ、はい」


阿川さんの攻撃的な質問をなんなく打ち返した室長が佐伯さんを伴って秘書室を後にすると、張りつめていた空気がふっと緩むのを肌で感じた。

そう思ったのは私だけではないようで、阿川さんはしかめっ面をしながら「あの鉄仮面男」と小さくぼやいて仕事に戻った。

本当に室長はあんなにイケメンなのに、何でいつも無表情なんだろう。もったいない。

怒った顔も笑った顔も、驚いた顔すらも見たことがない。そもそも冷静さを失う場面なんてあるんだろうか。

それに浮いた話も聞いたことがないけど彼女なんかもいたりするのかな。
彼女にだけは笑ったり怒ったりいろんな顔を見せるとかだったらかなり萌えるんだけど。

ま、そんなはずないか。
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