God bless you!~第13話「藤谷さん、と」
★★★右川カズミですが……〝彼氏について〟

タイトル
〝彼氏について〟

結論から言えば、彼は、ちゃんと、普通である。
神様でもゴミでもない。
今回は、様々な噂、評判、エピソードから彼の性質を検証してみる。

1 彼はモテる。
あたしは聞いた事が無い。
万が一、そんな噂が出ているとしたら、はっきり言って、大嘘だ。
同級生から見たらそうでもない男子である。しかし、後輩ウケはいい。
クラス30人いる中で1人がいいと言えば、1年生が6クラスとみて6人。
それぐらいは勘違いする女子がいても不思議じゃない。
実際それぐらいのファンは他の男子にもいる。バスケ部の、顔も、そして性格さえも好いとは言えない大馬鹿者にも後輩のファンは居るのだから。
そして、さらなる好条件と言うべきか、彼は1年から生徒会に属している。
朝礼などで先生たちと前面に並び、その顔を堂々と売ってきた。
それもあってか、1年の頃から彼は顔を知られ、早速彼女もできている。
それにも関わらず、彼に堂々と群がる女子はかなりいた。
その頃、あたしは声こそ掛けなかったが、斜め後ろからどんなヤツかと偵察は怠らない。優しいとか頭いいとか出来るとか周りが言うから、一体どれだけハイスペックな男子なのかと期待していたのに、実際見ると背が高いだけ。
それ以外、どうにも普通にしか見えなかった。
もし、面白いヤツだと評判が立っていたら、見掛けだけでは分からないので、早速話しかけていたかもしれない。今現在、散々話しているけれど、面白いとは程遠い。超クソつまんない、である。
良く見ると、女子はみんな彼に気があって群がっている訳ではなかった。
誰もが彼と同じ中学出身。いわば同中仲間の女子ばかり。
入学直後のあたし達は、花の高校生活始まったばかりで、ほとんどはまだ彼氏もいない。「とりあえず名の知れた男子に声ぐらい掛けて、アゲとかない?」というイベントに彼は都合良く使われていたように思う。
というのも、その頃から言える事だが、彼に声を掛ける女子は独りでは絶対来ないからだ。団体でやって来てワッと騒ぐ。彼に対して、誘惑めいた色気混じりの爆弾をブッ込むのも、これも団体さんだった。
この、団体でワッと来られるというのがミソだ。
随分モテるじゃないか!と見えてしまう。
実際、バカな同級生が今もその幻に苦しめられている。
ただみんなで盛り上がっているだけ。
そんな女子が集まる所、それを目当てに当然男子も群がる。
気がつけば、ついさっきまで彼の横で宿題を写していたと見える女子が、実際は彼の後ろにいた男子にイカレていて、いつの間にかちゃっかり、くっ付いている。そんなこんなで結局、彼はダシにされているのである。
あたしの後輩に、彼の写真を頼まれて撮っている子がいる。
彼には、こっそり写真を頼む程度におとなしいファンの存在もあるのだ。
しかし、その子に彼氏ができたら、写真はストレートごみ箱行きだ。間違いない。写真を欲しがる子が居るくらいだから、顔はまぁまぁイケてるのか、と勘違いする人がいるかもしれないけど、それは疑問だ。
女子の目線の大半はおよそ下から。角度によっては良くも悪くも見える。
当てにならない。
では男子の目線からはどうなのか。
背の高い側に属するバレー部男子に聞いてみた所、
「ちゃんと、目と鼻はついてんな。言えるのはそれだけ」
厳しい意見が返ってきた。これは、聞く相手を間違えたかもしれない。 
結果として、そんな普通な彼に、真剣に片思いして独りで告白した子は少ないと思う。あたしが知っているだけでも、たった2人だ。どちらも私じゃない。
1人ぐらいなら、それは普通にある事だ。
あたしだって1人いる。これは彼だ。
彼は、どこまでも普通だ。

2 彼はセンスがいい。
誰が言ってるんだ?出て来い!
あたしが思うに、背が高いだけで何を着ても似合ってカッコ良いという錯覚が起こっているのではないか。
彼の身長は、現在187センチ。
「大台だけは避けたい」と、いつも本人は嘆いている。
標準的身長の女子が、自分より背の高い男子に一目置くのは当然だ。
あたしのように背が低いと、男子は全てが高い壁である。
160センチも180センチも大差ない。
身長に騙されてセンスを判断するという錯覚に、囚われる事は無かった。
では実際、そういうあたしから見て、彼のファッション・レベルはというと……これが謎である。
あたし自身、彼の制服と体操服、バレー部のジャージ姿しか見たことが無いからだ。彼と同じ塾の女子に聞いた話だが、日曜の塾の日、普段着を見る機会があり、「意外にも良い物を着てるのよね」と彼女は言う。
フード付きパーカーは、UNITED ARROWSだったり、SHIPSだったり。Gパンは、BEAMSだったり。
「コートは意外にも無印良品だったかしら」
彼女は眼力鋭くチェックして、「意外とお洒落くん、みたい」と判断していたらしい。
ブランドの数々。どれをとっても軽く1万円は飛び超える。(無印以外。)
次から次へと、一体そんなお金がどこにあるのか。
彼はバイトはしていない。だから、たぶん親の金だ。
ちなみに、彼の母親の名は〝よしこ〟。
聞けば、彼の家は築20年の集合住宅に家族4人が慎しく暮らしていると聞く。そんな高価な買い物が可能だろうか。
最近彼が、これはちょっといい感じと思えるジャンパーを着ているのを見たので、「それ、どこで買ったの?」と偵察を兼ねて尋ねたら、「コーナンらしい」と返ってきた。
唖然とした。コーナンとは言わずと知れた巨大家庭用品雑貨店。いわゆるホームセンターである。
らしい、の意味をついでに聞くと、父親が買って着ていた物を借りたので、そういう返事になったらしい。
「自分の洋服ってさ、いつもどこで買うの」と尋ねると、
「自分では全然買ってない」と言った。
ではこれまで聞いたキラキラしいブランド、お洋服の数々はどうしたのか。
「あれは全部、恭士のだ」
恭士とは、彼の弟である。
同じような体格で、しかし聞けば、わずかながら弟の方が背が高いらしい。
大台突破目前・ストレート逆お下がり!に間違いなかった。
幾らの物でどういうブランドで、そんな事は彼にとってどうでもよかった。
BEAMSもSHIPSも知らなかった。ユニクロと無印良品は知っていた。(コーナンも。)
「恭士がすぐに飽きちゃうから、放ったらかしなのを俺が勝手に着る」
彼は何のためらいも無く、堂々とお下がりライフを語る。
そこには兄貴としての威厳もプライドも無い。
現存オーディオもNIKEのスニーカーも、聞けば全部がお下がりらしい。
パンツは……怖くて聞けなかった。
携帯は自分用が当然あるが、聞けばそれも弟に勧められて、その頃の最新モデルを買わされたと言う。
ずっとそれを使っていたが、一昨年あたり、水に浸かって壊れた。
(その話をする時は、何故か、あたしを睨む。)
そこでまたしても、最新モデルを買った。
弟にそそのかされて……ここまでくると、お下がりが過ぎて、もはや神だ。
沢村家のエンジェル係数を考えよう。
2人の男の子がいる。ちょっと高くてもモノに掛かるお金は、約1人分。
良い物は長持ちするだろう。思えば親孝行かもしれない。
だが、そうは言っても、いくらなんでも高価すぎないか?
沢村先生、弟くんに説教!慣れた所でよろしくお願いします。
唯一、SONYのパソコンは、彼自身が欲しくて親に頼んで買ってもらったというが、それは現在、あたしにお下がりして……しまいました。
まだ返していません。(それはいいとして。)
すなわち、センスがいいのは弟くんであり、彼ではない。
放ったらかしでもどうにか組み合わせて、どうにでもキマる。
それがブランドの底力だ。だから彼のセンスは関係ないと思う。
おそらく普通である。

3 彼はグルメだ。
有り得ない。
そんな評判は無いが、彼の性質を述べる上で重要なのでここに記す。
とある第3者から、「あいつ豆食わねーんだよ」と聞いた事がある。
だが、敢えて言われるほど食べない訳でもない。
実際、弁当の中に入っている時は、全部平らげていた。取りあえず食えるものは何でも食うと思う。だからここまで成長したのだろう。
好きな食べ物は、アジフライ。魚肉ソーセージ。などなど、リーズナブルな魚介系。好きじゃない食べ物は、茶色いシチュー。
「あれがシチューだって、つい最近まで知らなかった」
そこは通って来なかった……と彼は首をひねる。
ちなみに彼は、精神年齢45歳。精神年齢だけでは、酒はまだ飲めない。
いつだったか、親に勧められて堂々とちょっとは味わうと聞いた。
沢村家の道徳観念を疑う。
あえて聞かないが、タバコも親に隠れてちょっとは味わっている事だろう。
彼は、弁当をガツガツと10分くらいで平らげる。
2リットルサイズのアクエリアスを、がぶがぶと飲む。
飲んだり食べたりしながら、もう塾の課題を広げている。
そんなランチタイムには余裕も楽しみも見えない。そんな生き急いだ自分の食べ方には寛容だが、あたしの食べ方には納得がいかないらしい。
曰く。
〝ビスケットを牛乳にひたして、ザクザクと掻っ込む〟
〝パンに別添えのジャムをソーダに入れて、かき混ぜて飲む〟
〝親子丼を大きな皿にひっくり返して、その断層を楽しむ〟
どれをとっても、彼はあからさまに嫌な顔をした。
ビスケに牛乳で栄養完璧だし、ジャムを変えれば飲み物の味はいくつでも楽しめる。ゴハンにしみた親子丼のつゆ、絶対領域が、ジャスト・ライク・ミルフィーユで最高!
何度薦めても、彼は一切口を付けなかった。
グルメには、チャレンジ精神も必要ではないだろうか。
彼にはそれが無い。
普通を愛し、何でも食べている。

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