God bless you!~第13話「藤谷さん、と」
見つけられた者には、見つけられた理由がある
右川と藤谷の経緯は、朝から駆け巡った。
雪と見間違う程、真っ白の霜が降りた寒い朝の事。
いつになく、俺の周りは騒がしい。
〝conpuer〟という単語が分からない。その意味を思い出そうとして……思い出せなくて、少々ぼんやりしていたら、「うほほーい!」と、すぐ横を永田がやかましく自転車で通り過ぎた。これはいつもの事。
いつもと違うのは、朝一番、まず剣持がやってきた。
というか、コンビニに立ち寄る俺を待ち伏せて、「俺のせいで2人があんな事になっちゃって。すまん」と詫びてきた。
「その2人っていうのは、俺と右川。それとも、右川と藤谷」
そこが本気で分からなくて真面目に訊いたらば、
「あれ?どっちかな。良く考えたらどっちも。そういう事ってあんのかな。変じゃね?」と、剣持は軽く混乱している。
「いいよ。どっちにしても手が出た訳じゃないから。誰もケガしてないし」
気休めではあるが、とりあえずそう言って剣持を安心させておく。
実際、どちらも剣持が原因ではない。右川の元々の性質の問題だ。
北風に晒されながら、俺は校舎に向かう。
今も耳元では英文が流れる。思い付いてマスクを付けた。
その後、学校に着いた訳だが、暖かい教室に入れば入ったで、今度は塩谷と永井がさっそくスリ寄って来る。
一種、異様な冷気に包まれた。少なくとも俺はそう感じた。
「「もう2人は終わりだね~」」
何だ、その絶望ハーモニーは。
この場合の2人とは、俺と右川だな。
確かに。
何と言っても……まず、朝の待ち合わせに右川がやって来ない。
そんな予感もあったので、わざわざラインで『必ず来い』と伝えてあった。
すると、いつも待ち合わせている時間になって、『1人で行け!』と返信が来る。つまり、まだ怒っている。
溜め息が出た。
このままだと本当に、藤谷の言った通りになるじゃないか!
周りでは、
〝右川に傷つけられて泣いた、藤谷〟
〝藤谷に彼氏を取られて怒る、右川〟
「あんたはどっち側なの?」と塩谷と永井が、味方を求めて聞いて回る。
塩谷と永井は実際を知る生き証人の如く「「右川がサユリに酷い事を言った!」」と、あちこち触れ回るのだが、それじゃサユリは具体的に何て言われたの?……それを訊ねられた時、2人は可哀想なくらい無口になった。
見た目をけなされて、そのメイクをライオン・キングと間違えられた……言える訳がない。
いけないと思いつつ、笑いが込み上げる。
これが右川劇場の真骨頂。
その毒は、時として美味しい。だから余計にタチが悪いと言える。
そして現状、塩谷と永井を中心に、俺の周囲では、藤谷を放っとけないという暗黙の了解が生まれていた。
「沢村が謝れと言ったのに、右川は無視したんだよ!」と、塩谷あたりが叫ぶと、その事実から周りは、俺を藤谷側と勝手に判断。
「右川なんかと付き合うから、こんな目に」と勝手に同情してくれる。
永田が久しぶりのトピックに大喜びでやって来て、「大体、沢村は、くそチビに甘すぎんだよッ!」と嬉しそうに俺を責めた。「とっとと3Pしろよ。面倒くせーな」と、黒川が囁くだけでも鬱陶しい。
何をしようにも、休憩時間、右川はどこかに消えてしまう。
お昼も消える。放課後もさっさと塾に消える。
このままクリスマスも消えてしまうのか。
そんな事を考えていたら、急に切なくなってきた。
2人が一緒にいない事を、周りはどう思うだろう。
今回は、また別れたのかと騒がれるだけでは済まない。名実共に、彼氏の俺が藤谷側に付いたと判断されて、右川の立場がどんどん悪くなるのだ。
そして俺を悩ませるのは、右川だけではなかった。
1人で登校中、向かう先に……藤谷の姿を見る。
「来ちゃったぁ、なんてね」
うっかり庇ったあの日以来、藤谷の態度が増々、俺に依存してきた。
朝から俺を目ざとく見つけて声を上げる。強引に腕をとる。引っ張る。
そこに、黒川が自転車で通りがかった。「朝からちゃんと、やってんのかよ。3Pはどうした。チビ過ぎて、とうとうトリオは解散か」
何がそんなに嬉しいのか、けらけら笑って通り過ぎる。
藤谷は、「も、やだぁ」と嬉しそうにぴょんぴょん跳ねた。
慌てて腕を振りほどいても、藤谷は微妙な距離を保ちつつ、それでも離れない位置を死守しつつ、何でもない話を続けて。
「沢村って、たまには部活とか出てる?」
「いや。もうずっと出てない」
「こないだ野崎先輩来てたんだって。差し入れ持って」
「マジで。それは会いたかったな」
そう、こんなまったく何でも無い話だ。
それなのに、「会いたかった~とか言ってんじゃねーよ!」
「朝から仲いいじゃん」「盛り上がってんじゃん」と、からかいながら通り過ぎるヤツらが後を絶たない。
「おまえらって、中学んときから怪しかったもんな」と来て、藤谷はそれを否定も肯定もせず、自然に「も、やだぁ」と笑顔で聞き流す。
これじゃまるで本当に俺達、昔からどうにかなってるみたいじゃないか。
今日は5時間目が自習になった。
俺は昼休みから騒々しいクラスを抜け、生徒会室に籠るべく、廊下を急ぐ。
ため息の、その遥か先に……右川がいた。
最高に強い目ヂカラでこっちを睨んでいる。
俺は悪くない。
断じて悪くはないんだけど、仲間のしでかした事と思えば、弁解という訳ではないけれど……100歩譲って、そろそろ折れてもいいんじゃないかと。
さっそく右川に歩み寄った。
そこへ、「あ、ねぇ」と、藤谷が滑り込む。
途端、右川はくるりと翻って、クラスに消えた。
「……藤谷。おまえさ」
分かってやってるとしか思えない。
すると、
「あの、こないだはゴメンね。でも沢村がちゃんと分かってくれたから、あたし嬉しかった」
俺が一体、おまえの何に対して理解を示した?全く思い出せない。
それは、俺と言うよりも周りに向かって、そうか沢村はやっぱり藤谷側なのかと、暗に示す結果になってないか。
「はい、オードリーのグレイシア。知ってる?お花のブーケのお菓子。ほら、可愛いでしょ?」
藤谷はにっこり笑って、そのブーケを強引に握らせた。
「あのさ」
「いいの。ほら、食べて食べて」
何がいいのか。
ブーケに始まり、みかん、チョコ、マカロン、誰かのお手製クッキー……食べろ食べろと、次から次へと持ち込まれるそれを、俺は突っぱねられない。
これは〝悪魔〟の所業だ。
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