俺の彼女は、キスができない。

「ゆっくん！」
教室の扉を、思いっきり開いた。
そこには、柚希がいた。
「どうしたんだよ。息まで切らして」
柚希は、教室の窓にもたれていた。
その姿は、どこかカッコイイ。つい顔が#火照__ほて__#る。
「あ、あの。ちょっと忘れ物しちゃって」
というと、柚希の顔が歪んだ。
「は？お前、ウソついただろ」
どうして、そんなことを言うの？
「ウソなんか…」
「いいから。黙っとけ」
すると、ゆっくんは。

─チュ─

あ、ゆっくんだ。
今、私はゆっくんと。ゆっくんとキスしてるんだ。
自覚したときには、唇が離れていた。
久しぶりにキスできたのが、嬉しい。
「ゆっくん、ダメ。もう一回」
─チュ─
耐えられない。キミが隣にいなくて、どれだけ寂しかったか。キミは、知らない。
あのときに感じた、キスの違和感。キミじゃなきゃダメだって、心が叫んでいた。キミがまだ好きなんだって、心が叫んでいた。私には、キミが必要なんだって。
だから、もう二度と離れない。たとえ、何があったとしても。
そう思い、唇を離す。
ゆっくんの顔が、赤い。きっと、私の顔も赤いだろう。

「そういえば、ゆっくん。どうして、ここに？」
教室にいた理由が、ふと気になった。
「あ、あぁ。実は、山崎さんのヤツが告白してきたんだよ」
え、今、なんて。なんて言ったの？
「告白？あ、ごめん。キスなんか」
「気にすんなよ。断ったから」
え？断ったの？
「なん、で？どうして断ったの？」
そのときの私は、頭の回転が遅かった。
「どうしてって。お前、わざと聞いてる？」
そう言われ、やっと頭の回転が速くなった。

「あ！ちがっ！ただ、その」
「嫉妬、だよな」
「ち、違うもん！」
頬を膨らまして、否定する。
「で、どうしてお前がここに？気になるんだけど」
「だから、忘れ物を取りに来たって」
「それは、ウソだ。本当は、俺に会いに来た。もう一度、やり直すために」
ゆっくんの言葉にびっくりして、顔を上げる。
「なんで。分かるの…？」
「それは。まぁ、一応。彼氏ですから」
彼氏。その言葉に、胸が高鳴る。
私の彼氏か。それは、きっと永遠にゆっくんだけだと思う。だから。
「ゆっくん」
「ん？」
「私と、付き合ってください」
お辞儀までした。きっと、良い返事が来ることを願って。
「お前って、本当にめんどくさい。そんなこと言わなくても、俺が言うから」
「え？っていうことは」
「あぁ。また始めから、やり直そうぜ」
「はい♪」

─今日は、恋が終わって、恋が始まった日─