明日も明後日も。


「ねえ、普通の人って、どのくらいで忘れられるの……?」

悠人くんは何も言わない。
少し間が空いて、悠人くんは大きく息を吸って、大きく吐いた。

「いいと思います、忘れなくて」
「え……?」
「つーか、無理じゃないっすか? 20年後とかならともかく、今すぐ忘れるなんて。今は、気持ちを忘れるんじゃなくて、辛くならないように、自分を変えましょ」
「変える……? 自分を……?」
「今まで、彼氏の前でしか笑ってなかったんなら、他の人の前でも笑いましょ。彼氏といない時は、何してたんですか?」
「え、なんだろう……。家事……?」

いつでも隆が来てもいいように、自分の部屋を掃除したり、作り置きをしたり。

「じゃあ、家事以外のことにも目を向けてみましょ。そしたら、何か楽しいことが見つかるかもしれないじゃないっすか」
「……」

楽しそうに話す悠人くんに、私は目を丸くする。
そして、思ってしまう。

どうして、そんなに優しいの?

どんなに記憶を辿っても、悠人くんとはバイト先で業務連絡くらいでしか話したことがない。連絡先だって、知らない。
そんな彼が、どうして私とこうして話しているか、不思議で仕方ないのだ。


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