星空電車、恋電車
「あ、そういえば私、来週地元に行くことになったんです。久しぶりに大菊屋の揚げ饅頭食べてきます」

「あっちに行くのか」
京平先輩は意外だという顔をした。

「あれ以来初なんですけどね。幼なじみが結婚することになって、結婚式に呼ばれました」

「地元の人間関係全部連絡を絶ったわけじゃなかったんだな」

「まあほとんどは絶ったんですけど、高校の人間関係とかかわりのない昔の友達の数人とだけとはつながってました。今度もそっちの関係で」

「結婚する幼なじみっていくつ?」

「同じ年なんです。二十歳、授かり婚ってやつなんですけど、彼女、その大菊屋の娘なんですよ。お相手はそこの職人さんで結構年上らしくてーー」

「へぇ、あの老舗の大菊屋の娘ね。ドラマみたいに娘をキズモノにしたとか親父が怒って職人を殴り倒したとか?」

「いやいや、その反対。お相手がお父さんのお気に入りの職人さんだったらしくて大喜びだったみたい。跡取りと孫が一気にできるって」

「あーそっちか。老舗も色々と後継者問題は大変だっていうしな」

「そうみたいですね。大菊屋の一人娘の知ちゃんは前からお店を継がないって言ってたからどうするのかなって思ってたんですけど、一件落着みたいです」

「それで派手な結婚式になるってか?」

「いえいえお腹に赤ちゃんがいるのでとりあえず、近くの神社で結婚式だけして正式な披露宴は出産後にすることになってるとか。」

へえっと京平先輩は頷いた。
「新郎っていくつなの」

「確か、34とか35とか。大人の魅力がドバドバだって話ですよ」

「ドバドバかよ」

「ドバドバです。新婦が言うには・・・ですけどね」

「新郎のお友達にもドバドバがいるといいな」

「ははっ。そーですねー。出会ってすぐ私も電撃結婚したりして~」
先輩の悪乗りに乗っかってみるけど、もちろん冗談だ。そういうのいらないし。

「来週だっけ?」

「そうです。来週末。で、私が何を言いたいのかというとですね、先輩、お土産に揚げ饅頭買ってきましょうか?好物だったでしょ。最近忙しくて年末年始も実家に帰ってないって言ってましたよね」

「おお。よく覚えてたな。あ、いや、買ってきてくれるなら大菊屋の饅頭じゃなくて松浜屋の塩辛がいい」

先輩の中ではもう揚げ饅頭ブームが去ったのだろうか。
頻繁に学校帰りに大菊屋の揚げ饅頭を買い食いしてたのに。
そういえばあれから何年も経ってるしね。

「揚げ饅頭はまた今度で」

「いいですけど。それなら松浜屋の塩辛買ってきますね。タコ?イカ?カツオ?」

「タコで」

「オッケーです」

高そうなブローチのお礼も兼ねて塩辛を買ってこよう。
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